基本方針

美濃市の森づくり基本方針

~森を地域の財産にする目的の達成に向けて、次の基本方針に沿った森づくりを進めます~

① 未整備人工林の整備を推進します。
 美濃市森林経営管理制度実施方針に基づき、林班ごとに所有者の意向を確認し木材利用が可能な林班については事業者による「森林経営計画」の策定を支援することで整備を進めていきます。
 分収造林契約地及び家屋やライフライン周辺の防災・減災対策整備の一部を除いて、非皆伐方式による⾧期管理および放置管理可能な環境林への誘導のための施業を行います。また、施業で生ずる間伐材は可能な限り搬出し木材資源の有効活用に貢献します。
 自然力を生かした低コストで森林の公益的機能を最大限に発揮する「近自然型森づくり」を推進します。

② 防災減災対策整備を実施します。
 近年増加傾向にある森林・樹木の気象災害に備え、家屋やライフライン周辺の危険木について調査を実施し、送電線周辺や集落周辺の「ライフライン保全対策事業」「防災減災対策整備」を実施していきます。

③ 森林空間の多面的活用と木材利用を推進します。
 市内にはボルダリング、低山ハイキング、渓流釣り、ヒルクライム(自転車)、トレールランなどのアウトドアスポーツの拠点となる森林エリアが多くあります。このような森林空間を資源として位置づけて森林の多面的な活用を考えます。
 また、市内には地元の木材を使った家具工房や木工工房もあり、美濃市で生まれた赤ちゃんに地産地消の木製玩具をプレゼントする「ウッドスタート事業」を行うなど、地元の森林資源の多面的活用を行っていきます。

④ 森づくりを支える体制づくりを構築します。
 美濃市の森づくりを協議する「美濃市 森の環境づくり推進員会(年3回開催)」「美濃市 森林経営管理制度検討部会(月1回開催)」を設置し、「行政」「事業者」「専門家」「市民」が美濃市の森づくりについて意見を出し合い、施策の提案や施策の評価ができる体制を構築しています。
 美濃市と岐阜県立森林文化アカデミーは連携協定を締結しており、アカデミーの専門家や岐阜県地域森林監理士の資格を持つ専任の「地域林政アドバザー」が美濃市の森林行政をサポートしていきます。

⑤ 森林・林業の発信拠点として機能します。
 市内には「岐阜県立森林文化アカデミー」「岐阜県森林研究所」「森林総合教育センター(morinos)」「中濃農林事務所」といった森林・林業に関する県の拠点施設が多数あり、岐阜県の森林・林業の発信拠点となっています。これらの関係機関と連携して森林・林業の発信拠点として機能していきます。

林政アドバイザーコメント

美濃市林政アドバイザー・岐阜県地域森林監理士 鈴木 章

森を地域の財産に

~今ある人工林の成立過程と現状を踏まえて今やるべきことを実行する~

(未整備人工林の整備について)
 ここ数十年、森林(特に人工林)は、「価値が無いもの」「地域のお荷物」という捉え方をされることが多いと感じています。昭和30~40 年代までは森林は富の象徴であり、沢山の山を所有する「山持ち」さんは「お大尽(だいじん)」と呼ばれていて、親戚中で一番の「お金持ち」は「山持ち」のおじさんだったことを記憶しています。
 森林の価値が上昇したのは、戦後の復興期に木材の需要が急速に高まり、木材の価格が急騰して山の資産価値が上昇した時代がしばらく続いたからです。だから、その時代の森林は富を生み出す「打ち出の小槌」となり「森林=財産」だったわけです。
 しかしながら、同時期に森林の過伐採によって国内の森林資源が枯渇し、森林の裸地化も進み、昭和20~30 年代には、各地で台風等による大規模な山地災害や水害が発生するようになります。美濃市でも昭和34 年の伊勢湾台風や昭和36 年の第2 室戸台風で山地災害が発生しており、市内の金門橋、穴洞橋、⾧瀬橋、真倉橋などが流されるなど下流の集落に多大な被害を及ぼしています。
 このため、国土の保全や山地災害の防止の面からも、森林の造成の必要性が国民の間に強く認識され、伐採跡地を早期に回復することと、薪炭材の需要が減少して建築用材の需要が増加したことから、多くの広葉樹の伐採跡地がスギ・ヒノキの人工林に転換されていったという経緯があります。
 これらの造林事業は国の拡大造林政策として、主に森林所有者自らによって、公共事業(造林補助事業)として実施され、また、所有者自らの努力では植栽できない箇所については、森林開発公団(現在の独立行政法人森林総合研究所)や造林公社(現在の森林整備法人)が当面の費用を負担する「分収造林方式」により森林整備が行われました。さらに、当時の木材価格の状況から、補助事業によらず融資等による造林も行われました。(「我が国の森林整備を巡る歴史」-林野庁より抜粋)
 しかしながら、これらの人工林の育成には多大な時間がかかり、木が収穫ができる大きさに育つには最低でも40~50 年ほどの年数がかかります。また、植栽直後には下刈りや除伐と言った保育作業に育林コストが掛かります。この時代の造林事業(植栽・下刈り・除伐等)は、多くは造林補助事業として実施されることが多く、また、これらの作業は所有者自らや地域の人たちを雇用することで実施することが多かったため、補助金で育林コストの補填を得ながら、労働対価や地域の雇用を生み出すことができました。したがって、この時代までは人工林はお金を生み出す地域資源であったと考えられます。
 植林後15~20 年が経過すると1回目の間伐作業の時期になりますが、この時期になると農林業を生業にしてきた中山間地域で生活する人たちの多くは会社員となり、山林からの収入を期待しなくても生活が成立するようになります。また、間伐作業はチェンソーの技術も必要となり、木が大きくなるにつれて作業の危険性も増すので、所有者自ら作業することことが難しくなり、作業は森林組合等の事業者に委託することになります。間伐材は当初に予定していた杭丸太や足場丸太などの小径丸太の需要が減り、切り捨て間伐が主流になります。
 間伐作業も多くは造林補助事業として実施されましたが、切り捨て間伐では間伐材の売上収入が得られないので、補助金は森林組合等の作業者の労賃に充てられ、森林所有者の収入にはなりません。この頃から、所有者にとって人工林はお金を生み出す資源ではなくなります。
 このような背景で、所有者の間伐意識は上がらず、国や県などが間伐キャンペーンを繰り広げて公的補助金による間伐を推進してきました。しかし、所有者の世代交代や人工林への無関心から間伐がされずに放置される「放置人工林」が増加するようになります。
 適切な間伐が実施されない「放置人工林」の増加に伴い、過密状態になった人工林は自然災害に脆弱で、大雪や台風などによって雪折れや倒木の被害が多発します。美濃市でも平成14 年1 月の大雪で多くのスギ・ヒノキの人工林が冠雪害により被災し、平成30 年の台風21 号では倒木被害が多発して、家屋が被災したり⾧期に停電したりするなどの被害がでました。被災した人工林は復旧されずそのまま放置されることも多く、人工林の荒廃がよく目につくようになり、人工林は「価値の無いもの」「地域のお荷物」という認識に拍車がかかる原因にもなりました。
 現在では、戦後に植林された人工林の多くは50~60 年生を中心に成⾧してきており、収穫して木材資源として活用できる大きさに成⾧してきています。木材生産には⾧い歳月が必要であるため、農作物のような1年をサイクルとした短期的な投資と回収にはなりません。しかし、森林経営には立木を収穫可能な状態のまま⾧く在庫としてストックできるという特徴があります。さらに在庫としてストックする森林の管理にはほとんどコストがかかりません。また、ストックしている間も木は成⾧をし続けるので在庫量は増え続け、利用間伐や択伐(森林状態を維持しながら必要な樹木を伐採・更新する)により中間収入を得ることも可能となります。
 かつての薪炭林業は自然力を活用して育林にコストをかけない合理的な森林管理によって成立していましたが、拡大造林政策によって植林されたスギ・ヒノキは、当初から公的な補助金を使って育林をする体制がつくられ今日に至っています。
 戦後の建築材不足の時代に柱材生産の目的で40~50 年伐期で皆伐再造林をする前提で植林された日本の人工林ではありますが、現状では途中で管理を放棄されたり、当初の利用目的や生産目標が不明確になってきています。このような人工林については、再び育林コストのかかる伐採や更新はせずに、自然力を活かした⾧期的管理による管理コストのかからない人工林を目指していくことが得策となります。
 搬出間伐が可能な森林については、間伐材の販売収益で事業費の補填をはかると同時に、搬出条件が良ければ所有者にも収益が還元されるようになります。また、適切な間伐が実施された人工林は総体的に災害に強いと言われています。
 未整備人工林の整備を進めるにあたり、搬出間伐に必要な作業路の整備や集約化による作業の効率化が必要になります。このような森林のインフラ整備や森林施業の集約化に必要な山林境界の明確化などを市が支援することで未整備人工林を「地域の財産」として再生していくことを進めていきます。

(防災減災対策整備について)
 近年の気候変動や異常気象による集中豪雨の発生や台風の大型化や大雪などによって、電線や道路などのライフラインや家屋などに倒木被害が多発する傾向にあります。木が健全に大きく成⾧することは森林全体としては災害に強い森づくりにつながりますが、手入れ不足で樹高に対して細い木や人家や集落周辺の里山エリアにまでスギ・ヒノキを植林したことから、大きくなった樹木の倒木被害が顕在化してきています。
 市民の安全な生活や里山の景観を維持するためにも、ライフライン周辺や家屋の裏山の危険木の伐採整備を進めることが市の喫緊の課題でもあります。そのため、市内の危険木を把握するための調査を行い、所有者個人では対応が困難な箇所については、地域と行政の協働による防災減災対策整備を進めていきます。

(森林空間と木材の利用について)
 森林は木材を生産する以外にも多くの公益的機能を発揮してくれます。「土砂災害防止機能」「水源涵養機能」「生物多様性保全」「保健・レクリエーション機能」など直接的・間接的に市民の快適な生活を支えてくれています。
 近年では、軽登山、ボルダリング、自転車によるヒルクライム、トレールラン、渓流釣りなど森林環境を使ったアウトドアスポーツの交流人口の増加が顕著になっています。美濃市は高速道路網の利便性が高く、県外からも多くの人々が美濃市の森林を目指して訪れるようになりました。
 市では森林活用を多面的な視点でとらえることにより、地域財産としての森林活用につなげることを検討していきたいと考えています。「木工」「環境教育」「アウトドアスポーツ」などの部門で活躍する関係者の協力を得ながら地域の森林資源を最大限に活用できるような仕組みづくりを進めていきます。

(森づくりを支える体制づくりについて)
 平成31 年4 月に施行された「森林経営管理法」に基づく「森林経営管理制度」の導入によって、市の民有林管理に対する役割強化と未整備人工林の整備に市が主体となって関与することが求められています。これに伴って市の林務担当職員の専門性と業務量が膨らみ、この制度を円滑に進めるための支援体制づくりが必須となっています。
 美濃市では令和2 年度より「美濃市森林経営管理制度検討部会」を設置し、美濃市の森林経営管理制度の推進に向けてのロードマップ作りと事業の進捗管理を行うための体制づくりを進めています。
 市内には、森林文化アカデミーを中心とした県の森林・林業に関する専門機関があり、専門家と連携しながら美濃市独自の森林経営管理制度の実行体制が整いつつあります。また、制度の導入とともに「森林環境譲与税」も財源として配分されてきており、適切な予算計画と費用対効果の高い施策の実行と検証ができる体制づくりを進めていきます。

(森林・林業の発信拠点として)
 美濃市には森林・林業の担い手を育成する「岐阜県立森林文化アカデミー」を中心として、「岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアム」「森林総合教育センター(morinos)」「岐阜県森林研究所」「岐阜県中濃農林事務所」「岐阜県森林公社」「森のジョブステーションぎふ」などの森林・林業に関する岐阜県の拠点施設が数多くあります。
 また、市では美濃市独自の森林・林業の情報発信拠点として「美濃市森の担い手情報センター(フォレストワークみの)」の設置を進めています。Web やSNS を通じて美濃市の森林・林業に関する情報の発信を進めることで、人材不足と言われる森の担い手を確保すると同時に、市内の林業事業体と連携して森林・林業の労働環境の整備や専門性の高い人材の育成を進めていきます。